台高・銚子川不動谷〜東ノ川白崩谷

2002年5月3日〜5月6日
L越山・増田・松之舎・望月

5月3日 曇り
薄曇りの天気のもと、松坂駅前で夜行バスを降り、紀勢本線で尾鷲に向かった。周知の通り、尾鷲周辺は日本で最も降水量の多い地域である。

地形図を眺めながら、その大量の雨水を受け止める山々の様態を想像した。山の想像から一転して、車窓からは伊勢湾が見える。雲間から時折射し込んでくる朝日が海面に砕けて美しい。海に流れ込む銚子川を見て、しばらくすると尾鷲駅に着く。

食料の買出しを済ませ、タクシーに乗り、おしゃべりな運転手の話を聞きながら不動谷へ向かった。悪路のため車は発電所のところまでで止まり、そこから林道歩きになる。山は想像以上に険阻で谷が深く、青々とした樹冠が壁のように切り立った山体を覆い、小さな支流が高い滝になって幾筋も落ちている。入渓地点までの間に、二箇所だけ清五郎滝がちらりと見えるところがあり、次第に緊張感が高まってくる。

2時間ほどで入渓地点に着いた。遡行は巨岩ゴーロ帯で始まる。噂に聞いた南紀の巨岩だ。
ゴーロ歩きは楽しい。しかし前進はなかなか困難なもので、清五郎滝までの短い距離を進む間に2回の高巻きと1回の荷揚げをし、時間も1時間半を要した。80メートルあるといわれるこの滝は真下からでは落ち口が見えない。滝を見上げつつ、記録にあるように左岸から巻くことにする。ところがゴーロに行く手を阻まれ、容易に左岸に移ることができない。立往生しながら皆でルートを模索している中、ふと見ると、増田さんが滝に打たれながら左岸に向かって歩いている姿が目に飛び込んできた。滝の水を頭から浴びながらゆっくり歩く、まるで行者のようなその様は衝撃的だった。一見考えられないようなことも、ひとたび人がやっているところを見ると面白そうに思えるもので、私はすぐさまそれに倣って滝の下に進んでいった。合宿スタート早々、身も心も清められるようだった。
結局、皆同じようにして左岸に渡ると、そこに流れ込む支流に入り、10mの滝を超えたところからトラバースをはじめる。藪も濃くなく比較的歩きやすいので、全部で1時間弱で高巻くことができた。

昼食後歩き出すと、すぐにまた滝が現れる。記録では60メートルとなっているが、滝の傍らにはどういうわけかその場所に不釣合いな、存在理由のわからぬ立派な標識が立っており、そこには「清五郎滝第二の滝44m」と記されていた。その滝の釜にはすでに釣師が一人陣取っていたため、釣ができそうなら竿を出そうという期待は先送りされ、右岸から高巻いた。
滝の上に出ると穏やかな流れがしばらく続いていたのでザックを置いて竿を出してみた。投げた餌が水面に落ちるたびに、近寄ってくる魚影が見えるが、スレているのか食いつかない。諦めて遡行を再開するとすぐに20メートルの滝となり、これは右岸から巻いた。そこからしばらくは歩きやすく、ゴルジュや小規模の滝が現れ多少趣のある渓相になり、ようやく高巻きから開放されて普通に沢を遡行しているという気分になる。
一部ナメが現れる部分があるが、ちょうどその場所からスラブ越しに林道のガードレールがのぞいて見えて、興冷めである。明るく空の開けた河原に着いたところでテントを張った。

時折小雨が落ちてきたが、われわれの焚き火への執着はその程度のことには屈しない。心配とともに心の裡では多少期待していたヒルは、気配一つしなかった。

5月4日 曇りのち雨
6時起床、8時10分発。予定通りなら東ノ川で又口川パーティーと集中できるはずだ。天気予報ではこの日は雨である。「焚き火できるかなあ」と言う増田さんに、「集中もできるといいですね」と言うと、「そんなのはどうでもいい。重要なのは焚き火だ!」と一喝。いずれにせよ雨さえ降らなければそれで良い。今にも降り出しそうな曇り空を見ると、朝から気が重い。しばらくは渓相もあまり印象的なところがなく、黙々と進んで行くなかで、シャクナゲの鮮やかな濃いピンク色だけが目を惹いた。

どちらを選ぶか成り行きで決めようということになっていた二俣は、規模が小さく詰め上がったところが木組み峠に近い右俣が選ばれた。(しかしその判断には、越山リーダーのマイナー志向の方が大きく作用しているように思われた。)5分ほどで林道と交差する地点に着く。またそういう場所に限ってナメになっている。その橋をくぐり、3メートルの滝を超えると2段のチムニー状の滝に出会う。一段目は右岸から、次は左岸から高巻いた。この沢は総じて、高巻きで苦労するところがない。その代わり、登って楽しい滝というのもわずかしかない。この滝を過ぎると後は稜線上を目指すだけとなる。

稜線に出てからが一苦労だった。尾鷲道だと思って踏み跡を歩いているのだが、真北に向かって下るはずのところが、東に向かって緩やかに上っていた。何度か同じ場所を往復するうちに自分たちの位置をつかみ、地形図の登山道が実際より北にズレていることを理解し、45分してようやく木組み峠までたどり着いた。シュリンゲとメモで後から来るであろう又口川パーティーに道しるべを残しておいたが、後で聞いた話では同パーティーは別のルートを通ったため、それには気づかなかったということだ。

木組み峠から東ノ川へ下るルートも早々に見失い、2時間近くに渡る長く苦しいトラバースをする羽目になった。交信時間になりトランシーバーを使おうとして、バッテリーが切れていることが発覚し、交信不能になるという不都合も生じた。ようやく林道に出て、直立二足歩行ができるようになると後は速い。東ノ川沿いの車道の末端まで歩き、又口川パーティーの到着時間も考え、その対岸の河原にテントを張ると、時間は意外なことにまだ3時過ぎだった。

しとしとと降ったりやんだりする小雨の中、渡渉を繰り返しての薪集めに精を出し、それが一段落して皆思い思いのことをしていた。(その間、行水するアダムが現れ一同が驚かされるという一幕もあった。)雨が降り続くので仕方なくテントの中で酒やつまみに手を出すが、やはり火への想いがつのる。雨の合間を見て、思い立って濡れた薪を組み、苦心しながらもなんとか火をつけた。雨があがり焚き火も安定した頃、又口川パーティーが到着し、無事集中を果たした。この晩、超激辛麻婆豆腐をうまいうまいと多量に食べた人は、翌日、腹と肛門に変調をきたすことになった。

5月5日 晴れのち曇り
われわれのパーティーは6時起床、8時半出発。久しぶりのまぶしい青空の下、東ノ川を遡行する。胸までつかる箇所がいくつかあったが、寒くないのがうれしい。釣師二人の目の前もジャブジャブと渡渉しながら進んだ。
1時間強で白崩谷との出合いにたどり着く。出合いに立つと、空が開けて光に満ちた東ノ川とは対照的に、白崩谷は覆い被さる樹冠と怪しく黒光りする大岩によって奥が見通せず、まるで洞窟の入り口に立っているような印象を受ける。入っていくと、黒いゴルジュと水の青い色のコントラストがさらに不気味さを増す。最初の5メートルの滝を過ぎるとゴーロになる。わずかのナメと、釜のある小さな滝が一ヶ所ずつある以外は、ひたすらゴーロ歩きである。谷が開け明るさが増すあたりから沢の右岸はガレた斜面が続いて、支流の沢筋などを判別するのが難しい。この谷の名前は、このように斜面が崩壊して白い岩が堆積していることからつけられたのかもしれない。
ゴーロによって作られたような滝を二つ越えると、岩はさらに巨大化し、ダムのように水の流れを止めてしまいそうな、谷底いっぱいの大きさの巨岩が3つ重なっている。もはや岩というよりは切り取られた山体の一部が転がっているといった観である。ここは左岸から巻き、その後も巨岩帯を眼下に見ながら右岸を高巻きながら歩く。
二俣は右俣が涸れ沢、左俣が15メートルの滝となっていた。記録らしい記録がないこの沢に関し、「滝は一つしかない」というような情報をインターネットで得ていたので、この滝がそれかと考えた。しかし、右俣を少し登ってからトラバースして左俣の滝の上に出ると、さらにその先にも2段の滝がかかっていたためそのまま高巻きを続けた。沢筋に下りたところが小さな河原になっており、薪も豊富なためすぐにそこがテン場となる。魚はいないかと私は少し上流に向かったが、すぐに2段の滝に阻まれた。どうやらこの先には多くの滝がありそうな雰囲気がした。とにかく滝は一つではなかった。ゴーロ歩きだけで終わってしまう沢かと思われたがそうでもなさそうだ。明日の行程が楽しみになる。
この晩の焚き火は盛大なものだった。大量に集められた薪が次々と燃やされて炎は高まり、増田さんが引きずってきた木の根までが投ぜられるに及んで、宴はクライマックスに達した。

5月6日 晴れ
12時15分のバスに乗り遅れぬよう、余裕を持って出発した。二晩前の麻婆豆腐の後遺症もようやく消えてきたようだ。
右から流れ込む支流を過ぎるとすぐ、幅2メートルくらいに迫ったゴルジュがあり、その先に昨日見た滝が落ちている。昨日は高巻きが必要かと思われたが近づいてみると登れそうだ。2段目は先に登った越山さんに上からザイルで確保してもらった。滝の上にはすぐにまた8メートルの滝がかかっている。これは左岸の支流から高巻いた。沢筋に戻るとゴーロである。3メートル・2メートルの2段の滝は左岸から巻いた。「まだ何かありそうだなあ」などと言っていると、大きな連瀑が現れた。最初の2段10メートルを難なく登ると3本の沢がそこで合流しており、一番左の本流は15メートル滝、真ん中の支流は細いながらも20メートルほどの滝になっている。一番右の支流を登って高巻くことにする。その途中振り返って本流の滝を見ると、その上にさらにまた15メートルのナメ滝が2条になって落ちているのを発見し、一同大喜びする。時々滝を見やりながら足場の悪い高巻きを慎重にこなし、滝の上に出た。そこから少しばかりゴーロを行くと後は最後の詰めになり、尾鷲道にたどり着いた。

大台ケ原の駐車場に着き、帰る身支度を整えると、発泡酒で乾杯し、バスで下山した。(記:望月)

《コースタイム》
一日目(5/3)
入渓点(11:50)〜清五郎滝下(13:10)〜清五郎滝上(14:55)〜泊場(16:45)
二日目(5/4)
泊場(8:10)〜二俣(8:55)〜稜線(10:30)〜木組み峠(11:15)〜東ノ川車道(14:40)〜泊場(15:10)
三日目(5/5)
泊場(8:35)〜白崩谷出合い(9:55)〜697m(12:05)〜二俣(14:20)〜泊場(15:00)
四日目(5/6)
テン場(7:40)〜尾鷲道(10:20)〜尾鷲辻(10:40)〜大台ケ原駐車場(11:10)

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