北ア・黒部川上ノ廊下〜伊藤新道〜湯ノ俣川下降

2002年8月12日(月)〜16日(金)
五十嵐・他1名

ようやく、この日が来た。12年前、前穂から下山中に主人の恩師とばったり出会った。山岳会へ誘われる。沢登りはTVでちらっとしか見たことがなかった。山岳会ではそういうこともするということを聞いて、もしかしたら私でも上ノ廊下に行けるかもしれないと思い山岳会に入った。

12日 黒四ダムの湖岸道は長い。よく考えると12年前から北アルプスには来ていない。歩きながら今までの山行のことをいろいろと思い出す。湖岸道はずいぶん変わった。沢を渡るのに丸太の梯子を下りて登らなければならない。前はそのまま渡っていたのに。なんでこんな重い荷物を背負ってこんなところに来てしまったのだろう。う〜ん、しんどい。曇り空で助かった。平ノ小屋は前のままだった。でも原っぱだったところに新築の小屋が建っていた(今秋オープン予定)。

渡し船は10分ほどで対岸に着く。船長は釣りをしながら運航し、みごと巨大な魚を釣り上げた。マスみたいだけどなんだろう。
右岸の道は水平で歩きやすい。と思ったら後半は梯子だらけになってしまった。黒部川は大きな川原の中をゆうゆうと流れている。しまった!入溪点は東沢ではなく、最初に沢を渡ったあたりだった。
へろへろになって奥黒部ヒュッテに着く。今日はここまでとすわりこんだのだが、ここでは焚き火ができないからと最初のテン場をめざすことになる。濡れるので沢靴を履いたがすぐだった。薪を集めて火を点けるころには雨が落ちてきた。カッパと傘で宴会し、明日の晴れを願って就寝。

13日 空はどんよりしている。昨晩はよく降った。テン場は熊ノ沢手前の台地だった。ともかく出発。
最初の渡渉は腰、次は胸。流れが強く川幅も長いのでスクラムで渡る。水は余り冷たくない。
渡渉に慣れたころ、下ノ黒ビンガに到着。なかなかよいながめだ。
口元ノタル沢をすぎると、最初のゴルジュになった。黒部川が川幅約20mいっぱいに流れている。かろうじて足のつく真中をできるだけ進み、右岸へ移ろうと思ったが、流れが速く流されてしまった。ザイルを出してもらう。
川原で休憩。日が差してきた。旧黒五跡の川原では大休止。川原のあちこちですわり周囲の景色を眺める。ゆったりとして気持ちがいい。ここにいることをとても幸せに思う。

いよいよ上ノ黒ビンガだ。空は晴れ、最高だ。どこを向いても楽しい。ビンガは黒から赤茶色へと変わっていく。右岸の岸壁にカモシカを発見。向こうもこちらを発見。ずっと見ている。
左岸、右岸に落差のある滝がかかる。それぞれが違っていて見ごたえがある。

金作谷を過ぎたあたりで水位が下がったのを感じる。水の抵抗が少なくなった感じがする。2つ目のゴルジュは流心を越えるときにひもを出してもらう。
ゴルジュを越えた左岸の台地にツェルトを張る。15時半。テン場到着時間が早かったので、ごはんの支度も明るいうちにできた。一時雨がぱらついたが、今夜はゆっくりできた。

14日 今日も朝から腰の渡渉だ。3つめのゴルジュは流れが速いため、まず左をへつり右にわたり右壁を登って懸垂しバンドに下りる。バンドは簡単にトラバースできた。泳げる人なら、左を泳ぎ流心を越えて右のバンドに渡ることができそうだ。
義ちゃんは朝一で寒くて泳ぐ気がなかったと言っていた。今回初めて義ちゃんが泳ぐのを見たが、登れるだけでなく泳ぎも達者だし結構好きらしい。
続く淵は右を泳ぐのが速いが、流されて体力を消耗するのがいやで左をへつってしまった。泳ぎところはここでおしまいだったので泳げばよかったと後から悔やむ。しかし今日は寒い。

岩苔小谷沢付近で釣り師に会う。核心部を越えたことを感じる。岩の間を水が流れているところは右の巻道を使う。立石奇岩を過ぎ大きなガレ場を過ぎると、黒部川はおだやかな流れになる。
B沢の付近で沢を下降する多人数パーティに出会う。今日立石奇岩に泊まり、明日東沢を越えて針ノ木まで行くということだった。下降とはいえ、すばらしい健脚だ。
人だかりの薬師沢を通り越し、10分ほど歩いた左岸をテン場とする。御飯はなんとか食べたが、宴会は雨のため途中で切りあげる。
1
5日 朝から雨だ。雨の中のパッキングはつらい。昨夜結構降ったと思ったが、水はけがいい場所だったらしくツェルトの下は乾いていた。雨のため気が重いが出発。
黒部川本流にかかる初めての滝は5mほどで右に巻道がある。左をへつるのはむずかしいので泳いで取り付き左を登る。義ちゃんは簡単に行ってしまったが私には大変。(もちろん、ひも使用)その上にはナメが広がっていてさらに淵になっている。赤木沢の出合であった。そこから上流はゴーロ歩きだ。通常の水位ならば渡渉はほとんどないのだろうが、増水しており渡渉を繰り返す。石にはミズゴケがついていてよくすべる。

五郎沢を過ぎるころには水がかなり茶色になってきた。雨はしだいに強くなり、ザックがどんどん重くなってくる。しまいには茶色の本流を腰までつかって渡渉する羽目になった。
冷えて身体が動かず、寒い中、義ちゃんにずいぶん待ってもらった。増水のため(私がへろへろなこともあったと思うけど)黒部川の最初の一滴を見るのはあきらめ、三俣蓮華への沢を上がり登山道が見えたところで登山道に上がる。
究極のへろへろ状態で三俣山荘に到着する。小屋は混んでいたがストーブが焚いてあり、時間が経つにつれ元気になってきた。小屋に泊まろうといった義ちゃんに感謝する。温かいふとんで就寝。小屋はありがたい。

16日 今日は3時起床。5時出発。義ちゃんに起こされる。(早起きにも感心する。えらいなあ。)朝焼けだ。昨夜遅くには満天の星だったらしい。天気予報では雨だったため下山路は双六岳経由新穂高に変更のはずだったが、晴れているので予定通り伊藤新道を下ることにする。小屋で聞いたところによると伊藤新道は現在吊橋はなく廃道になっているということだった。

伊藤新道の入り口は鷲羽岳への途中、山腹をトラバースしている。踏み跡は細いがはっきりしていた。赤沢を横切るまでに一箇所わかりにくいところがあり、そこはナイロンのひもが控えめに結んであったが、それ以外テープ等はついていない。下りの尾根は傾斜が急なところが何箇所もあり、すべて新しいトラロープがセットされていた。途中、槍ヶ岳、硫黄尾根、北鎌尾根、西鎌尾根の絶景を見ることができた。

赤沢から先は道がはっきりせず、沢を下ることになる。第5吊橋は跡が残っていた。晴れていれば下降でむずかしいところはない。
湯俣川は赤茶色の岸壁で明るい感じがする。水は硫黄の匂いがするので飲まない方がいいかもしれないが、飲んでも大丈夫だった。(結構飲んだ。)道らしき跡はところどころ感じる。何となく天気が心配で気持ちがあせっていて、沢を楽しめなかったのが残念だった。
最後にお湯の噴出している(とても熱いら・し・い)ところと入浴中の露天風呂を横切り、湯俣温泉晴嵐荘に到着。空はすっかり晴れてしまったので、庭で荷物を乾かしお風呂に入りラーメンを食べる。湯俣川の途中でタオル(汚い?)をなくしてしまったらしく、タオルを買おうと思ったら晴嵐荘には売り物はなく、黒部観光のタオル(きれい)をもらった。
高瀬ダムの湖岸道はそれぞれのペースで歩き、義ちゃんは先に行ってタクシーを呼ぶことになった。高瀬ダムの湖岸道は黒四ダムと違い水平でとても歩きやすかった。ただし、もう身体が一定速度以上に歩けなくなっていたので、ダムに着いたらすでにタクシーが待っていた。(義ちゃんより30分も遅れたらしい。)信濃大町で無事上ノ廊下を遡行できたことを祝いひれかつ定食で乾杯する。おいしかった。

私にとって黒部川は故郷の川である。上ノ廊下に足を踏み入れたとき、川は上流も下流も同じで「黒部川」であることを身をもって感じた。たとえ、黒四ダムや黒薙ダム他ダムがたくさんあろうとも、黒部川は黒部川であった。上ノ廊下は平水ならば滝やむずかしいところはほとんどなく、ゴーロ歩きと渡渉の繰り返しである。上ノ廊下を歩きながら、沢登りを始めてからのこと、幼き日のこと、下流の現状、いろいろと思い出し、とにかく胸がいっぱいであった。今回の上ノ廊下は、泊まりの沢はおろか日帰りの山さえ行っていない私が行くこと自体無謀だったと思うし、今更ながらよく行けたと思う。同行者の義ちゃん他、いろんな方にご迷惑をかけた。本当にありがとうございました。(記:五十嵐)

コースタイム
12日 扇沢6:30〜黒四ダム6:50〜ロッジくろよん7:45〜平ノ小屋10:50-12:00〜対岸12:25〜奥黒部ヒュッテ14:50-?〜熊ノ沢手前の台地15:40
13日 出発7:10〜下ノ黒ビンガ8:40〜旧黒五跡の川原11:50-12:50〜金作谷14:30〜左岸の台地15:30
14日 出発7:00〜赤牛沢9:30〜岩苔小谷9:45〜立石奇岩11:30〜E沢13:20〜B沢14:45〜A沢15:10〜薬師沢先の左岸の台地16:45
15日 出発7:00〜赤木沢8:20〜五郎沢9:40〜祖母沢10:00〜2349m地点13:20〜登山道13:40〜三俣山荘14:30
16日 出発5:00〜雪田の跡6:00〜赤沢7:??〜第五吊橋跡8:40〜ワリモ沢9:25〜カラ沢10:00〜右岸から沢10:25〜噴湯12:10〜晴嵐荘12:30-14:20〜高瀬ダム16:10

1/25,000地形図
烏帽子岳、薬師岳、三俣蓮華岳、槍ヶ岳

交通機関・費用
交通費 行き 急行、トロリーバス7430円
帰り 高瀬ダム〜信濃大町駅までタクシー代 約7000円、特急7220円
小屋代(素泊り) 5500円

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