森へ帰るサル

 里山の風景が広がる散歩道。おなじみの犬や人が田んぼの中道に集まり、犬どうし駆け回る。ときおりジャーキーやパンを投げてやると、うちのゴンザレスはぼんぼんぶりを発揮する。少し大きいエサだと、小分けしてからゆっくりと味わっている。

あっというまに自分の分を丸のみにしたほかの犬が、ゴンザレスの分を横からさらっていく。が、盗られても怒るわけでもない、というより気づいてさえいないというお人よし犬である。犬仲間のなかでも元野良嬢のたくましさは格別で、カモやカラスを狙い、バッタを捕まえて食べる。かたや、ひよわなゴンザレスは生存競争で負けることは必至、野良では生きていけそうにない。

ヒトの場合はどうだろうか。野生度をはかるチェックリストを新聞上にみつけた。題して「あなたのサル度チェック」(犬山市日本モンキーセンター作成)、以下のような30の項目に、○×チェックする(以下、抜粋);
・枝ぶりのいい木があるとなんとなく登りたくなる
・疲れると林があるところや山に行きたくなる
・道草をくうのが好きだ
・素足で歩くのが好き
・方向感覚はよい方だ
・どこでも寝られる
・山でトイレが近くになく、人もいない場合、野グソができる
・柿、ブドウ、キイチゴなどが好物である
・すっぱいキウイ、しぶいお茶、えぐい食べ物も案外平気

これをみているうちに浮かんできたヒトは、当然、沢に遊ぶヒトたちの面々である。「食べ物が配られると人の分量が気になる」なんていうのもあり、私も下界では少食のほうだが、山では大喰らいになり、ヒトの分をもの欲しそうに見ていることがある。

もし、沢に遊ぶヒトの「沢ぐるい度チェック」のリストをつくるなら;
・凍えながら歩く冬の沢もおつなもの
・長いゴルジュの入口にたつと、にんまりしてしまう
・駅ではビバークの場所をチェックしてしまう
・山菜やきのこに目ざとい
・ヤブこぎは嫌いではない
・焚き火にはこだわるほうだ
・稜線にたつと、次に行きたい沢が視界に入る
・雪山にビールは欠かせない
・帰りの車内は居酒屋と認識している
などなど。

上記は、沢で遊ぶ多くのヒトたちに共通している傾向もあれば、特定のヒトに顕著な傾向もある。私の場合に限っていえば、泳げないのでゴルジュは苦手、ヤブこぎも30分以内なら…、できればヤブこぎのない、草原がいいな。恐れ多くも過去2度足を踏み入れた朝日の(比較的やさしい)沢では、必死の形相でついていくしかなかった。むずかしさでは朝日の上をいくと人づてに聞く飯豊へは絶対行かないし、行けない。つぎに置く足場やつぎにつかむ枝を追いつづける沢登りよりも、鳥の声に耳をすませたり、草や木と語らう余裕のある沢登りが好きだ。(技術的に向上すればもっと余裕がもてるようになるともいえるが。)
なんとはなしに、沢のなかにいるだけで幸せを感じる瞬間がある。ほてった顔にあたる風のここちよさ。見上げると、光る緑が目に染み、木々の香りに鼻腔がひくひくして。落ち葉が堆積したふかふかの土もいいにおい。岩から染み出す水の甘いこと。木の実や山菜はもちろんだが、ただそこに生えている山の草花との出会いもうれしい。
ヒトは森を出たサルである。森へ帰ると、忘れていた感覚を取り戻すのだろう。

それは五感で感じる幸せ… そして、沢をたどりつつ山ひだに包まれていく幸せ。(とま)

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