北ア・金木戸川双六谷九朗右衛門谷〜黒部源流〜赤木沢

2003年8月13日〜8月17日
L西、五十嵐、望月

2003/08/13 北ア:双六谷

高速バスは新宿を午後4時に出発し、平湯温泉に到着したのは午後8時過ぎだった。バスを降りると、Tシャツ一枚では少し寒い。タクシーは通常双六ダムまでしか入らないのだが、交渉で林道をさらに奥まで進んでもらえることになっていた。

運転手の話では双六谷の水は冷たいことで有名で、最近は雨のせいで水量が多くなっているという。つかることが多いと予想されるだけに多少気持ちが萎える。9時半、ゲートのあるところでタクシーを降り、幕営。明け方、1パーティーがテントの脇を横切る音がした。車が近くに止まる音も聞こえた。

8月13日 晴れ
6時半出発予定がどういうわけか6時5分前に出発と、異例の出来事で合宿一日目が始まった。空は朝から晴れ渡り、空気はすがすがしく、金木戸川の流れも穏やかだ。林道を一時間ほど歩くと発電所に着き、さらに一時間ほどで小倉沢出合手前の広川原に出て、そこで休憩を取る。休憩中、2パーティーが我々を追い抜いて林道を歩いていくのが見られた。ひとつは出発地のゲートで会ったパーティーで、打ち込み谷を遡行すると聞いていたが、もうひとパーティーのほうは不明で、ワンゲル風の身なりや装備の6人衆で、どうやら我々とルートがかぶりそうである。それを見ると我々は休憩を短縮し、再び林道に戻った。

歩き出すとすぐに取水口のような建設物があり、そこを過ぎると渓相が一変して巨岩ゴーロになる。タクシーの運転手の言っていたとおり、水量もかなり多い。そのあたりで休憩している“ワンゲル風”のパーティーを抜いたが、その時彼らも九朗右衛門沢を登ることを聞いた。

小倉谷出合を越えてすぐ、踏み跡は二つに分かれ、沢から離れる方に「←打ち込み谷」という表示が出ていた。我々はそれを無視し、地形図通り沢沿いの踏み跡を選んだ。しかしこれは失敗で、その道は荒れ果て、しまいには見失い、結局沢に降りるしかなくなった。どうやらさっきの分岐は、地形図にはない新しい道を示しているようだった。

増水した巨岩ゴーロ帯の前進は困難を極め、凍るような冷たい水の中、1時間ほど渡渉や荷揚げを繰り返した。出だしから大変な消耗である。あまりにも時間が掛かりすぎるため右岸を登り、新しい道を探し、やがてしっかりした道を見つけた。

打ち込み谷出合の壊れた吊り橋でその道は終わり、そこから改めて入渓となる。前方を見るとさっき追い抜いた“ワンゲルさん”たちの姿が見える。「なぜ我々が後ろにいるのか不思議だろうね」などといいながら昼食を摂った。
40分ほどして出発しようとするが、“ワンゲルさん”たちがまだそこにいる。休憩でもしているのかと思ったが、皆ザックを背負ったままである。歩き始めてすぐに分かったが、増水と巨岩と、ゴルジュに阻まれて、なかなか進路が見出せないのである。我々もお助け紐を使っての腰上の渡渉や荷揚げを繰り返すことになり、「出合の吊り橋」から「出合」まで一時間も掛かった。地形図上では僅か1ミリの距離である。今日のテン場予定地までたどり着けるかどうか、怪しくなってきた。

午後1時、打ち込み谷を過ぎても水量が減ったようには見えず、渓相は変わらない。滝も川原もない。両岸がゴルジュの巨岩ゴーロ帯で、ひたすら渡渉と荷揚げと、小さな高巻きが繰り返される。3時半頃に幕営準備をする“ワンゲルさん”たちを追い抜いた。それ以外4時15分にセンズ谷出合に着くまで、特筆すべきことがないほど、ただただこの繰り返しであった。最終部分で一箇所だけ、危険なジャンプをせねばならぬ渡渉点があり肝を冷やしたというくらいだ。あえて言えば、この苛酷な渓相の中、出合までたどり着けたということが特筆すべきことかもしれない。そこまで来れば、テン場予定地まで確実に行ける。
センズ谷を越えると渓相が一変し、穏やかな流れの川原になった。1時間ほどの川原歩きでテン場予定地に到着、水流が地形図とは違っており、左岸にテントを張った。振り返ればこの合宿の中でそこが一番良いテン場であったが、長いゴーロ歩きの疲れか、酒盛りも早々に皆焚き火の周りでウトウトしだし、雨が降り出す前に全員テントに入って寝てしまった。

8月14日 雨
雨がテントを打つ音で目が覚めた。というより、皆寒さで寝られず、ずっと雨音を聞いていた。少しでも水が引いて、楽に進めるようになることを期待していたが、益々水かさは増していくように思われた。この日どこまで進めるかによって、3日目に雲ノ平にいけるかどうかが決まる。しかし雲は厚い。

しばらくは川幅いっぱいに水が流れる浅瀬が続き、その後は普通の川原になり歩きやすい。両岸がルンゼになった所は、岩の黒と草の緑のコントラストが鮮やかで、そこに右岸から比較的大きな枝沢が20メートルの滝になって落ちている部分はなかなか迫力があった。

あとはまたゴーロやゴルジュが所々に現れる。初めて滝らしい滝も一つ出てきたが、これは左岸から巻いた。ゴーロ歩きを続け、昼頃、九朗右衛門谷から流れてくる沢との二俣に到着。思いのほか大きな沢で水量も多く、驚かされた。ここで休憩をしていたが、雨脚が次第に強くなり、西さんの判断でこの日はここにテントを張ることにした。

半日時間が空いてしまった。焚き火のできるような天候ではない。テントを張ると、リーダーは早くも酒を飲みだす。テントの周りにはフキがたくさん生えていたため、それを採ってきんぴらにすることにした。くだらない事を試してみるよりほかにやることもないので、きんぴらの味付けで様々な実験をして遊んだ。その結果、ワサビを入れると旨いということが判明した。

5時頃、“ワンゲルさん”たちが現れた。前日よりさらに増水した中で、センズ谷までの巨岩ゴーロを突破するのに苦労したようだ。沢の中で他のパーティーに会うことはあまり快くない筈なのに、この状況の中では妙に親近感がわく。彼らもここに泊まるそうだ。話を聞くと彼らは松本労山の方々だそうだ。我々より少し高い所にテントを張り、まもなく焚き火の煙も上がったが、雨脚は強まる一方で、やがて煙も見えなくなった。

結局夜までテントから出ることもままならず、次の日の行動などを話しながら時間をつぶした。

8月15日 雨のち曇り
一晩中雨が降り続いていた。集中を果たすには今日はどうしても行動せねばならない。7時40分、小雨の中出発し、再びゴーロ歩きを開始する。九朗右衛門谷と蓮華谷の出合手前の、2〜3メートルの滝が3つ続く所から、九朗右衛門谷の30メートルの大滝が眺められた。

出合でザックを下ろし、空身で滝の下まで行ってみる。滝までの50メートルほどは急斜面のひどいガレ場で、伏流になっている。滝はそのガレ場に右から落ちている。他会の記録では滝の右から入っている沢筋から巻くと書いてあるものがあったが、どうやら滝の左のガレ場の端に取り付けそうである。それを確認してザックを採りに戻ると、丁度松本労山さんパーティーが到着した。滝のしぶきを間近に浴び、マイナスイオンをたくさん浴びられたといって喜んだ五十嵐さんが、高校生くらいの若いメンバーにハイテンションで話しかけ始めたので、彼は少し狼狽していた。

高巻きは足場が悪かったが目論見通り滝の左から20分程度で済んだ。沢筋に戻ると、そこからは岩盤が露出し小滝が連続した歩きやすい渓相になり、そのまま気持ちの良い高山植物帯の源頭部に続いた。雨もいつのまにかあがっている。11時半、稜線上にあがる。稜線の向こうは雲の合間に山並みが見え隠れし、ようやく北アルプスに来たという実感が湧いてきた。黒部五郎小屋で昼を食べるとき、乾いた椅子とテーブルの心地よさに3人で感動した。(記:望月)

稜線から北は天気がよかった。できればここで荷物をひろげて乾かしたい気分だ。小屋の広場で昼食をすませた後は下るだけだ。五郎沢は小屋からそのまま降りているのだが、人目があるので、少し離れたところから下降した。草原にはお花がたくさん咲いている。少し下降するとハイマツなどがまざり日本庭園のような美しい景色がひろがる。五郎沢は大きな石のゴーロでどんどん高度を下げている。登るのはしんどいだろうけど、下るのは楽だ。1時間半で出合に着いた。

黒部川本流は結構水量が多い。去年遡行したときは雨が降っていたのでもっと多かったけれど。出合に荷物をデポし祖父沢の散策に向かう。湿原があるらしいが、見た目には熊笹におおわれた草原であった。笹の中をさがし西さんは湿原を探しあてたのだが、望月君と私は川原でごろごろしていた。15時の交信はできなかった。

交信できなかったのでなるべく赤木沢近くの場所でテントを張るべく源流を下る。途中で双六谷から一緒に登ってきた松本労山パーティと挨拶をかわし、さらに右岸沿いに下っていくと、テントが見えてきた。1張り、2張り、3張り、4張りいっぱいだ。と思ったら赤木沢出合に着いてしまった。私がいいと思っていた場所は通り過ぎてしまったらしい。17時になるのでとりあえずウサギ平に登って交信を試みるが通じなかった。

上ノ廊下パーティと合流すると窮屈だが時間も遅いので、左岸のトリカブトが咲き乱れるテン場にテントを張り一段下の川原で焚き火をすることになる。テン場が左岸だったので薪もなんとかあつまり焚き火ができた。久しぶりに天の川を見ることができた。

16日 赤木沢〜赤木山〜薬師峠 晴
今日はいい天気だ。しかし寒くてほとんど眠れず、ひたすら目をつむり朝を待っていた。3人ともそうだったらしい。焚き火がつくとようやく身体が温まってきた。右岸に幕営していた赤木沢へのパーティを全員見送り、最後に出発する。

出合はプールになっているのでいきない腰までつかる。冷たい!(冷たかったのはここだけだった。)出合で朝食をとっているパーティがいる。人の好みはいろいろだなと思う。出合に連絡の取れなかった上ノ廊下パーティへのメモを残す。

すぐに沢は開け赤い岩肌のナメ滝が連続する。明るくきれいな沢だ。ウマ沢を越えるとナメ滝が連続している。しかし、前も後ろも人だらけだ。丹沢の勘七ノ沢とか湯桧曽本谷ではザイルを使うところで渋滞し、人をたくさん見かけることになるが、赤木沢ではザイルを使っているわけではない。想像を越える人の多さだ。ザイルを使うところはないので、特に待たされるわけではない。山に来ていると思わず、都会に暮らしていることを思えば大丈夫である。これだけきれいでこれだけむずかしくない沢(初めての沢登りでも空身なら大丈夫だと思う)ゆえの宿命かもしれない。年配の方も多く、アプローチはたいへんだと思うけれど、やはり山屋さんはガッツがあるなあと感心した。(自分が軟弱なだけか)

2段の大滝は左側が絶壁になっていて、なかなかかっこいい滝だ。左岸の潅木帯を垂直に木登りしているパーティもいたが、荷物が重いので一つ手前のルンゼから高巻く。結構高い。踏み跡がしっかりついているので簡単に巻けた。今回は双六も含めて巻き道がほぼついているので、なんだか朝日のあやうい草付がなつかしく思えた。きっとあやうい草付があったらこんなところ絶対いやだと思っていただろうけど。

二俣で12時まで上ノ廊下パーティを待つ。これでもかというほど、人が登ってくる。本流は左俣だと思うが薬師峠に近い右俣へ進むパーティが多いようだ。私たちは左俣へ進み次の二俣を右へ赤木岳をめざして進む。稜線直下に雪渓が残っていたが特に問題なかった。 稜線はお花がたくさん咲いていた。展望とお花を楽しみながら薬師峠をめざす。疲れているのと空気が薄いのと足幅が違うのとで、ピッチはあがらず二人の後ろをのろのろと付いていく。北ノ俣岳と太郎山の間で交信。佐藤さんの声がきれいに入りひと安心。太郎山から太郎平小屋までが地図上より長く、太郎山の山頂位置が違うのではないかということになった。太郎平小屋はビールが安かった。

薬師峠はテントがいっぱいだったが、余り人が気にならないところにテントを張れたので快適だった。ビールで乾杯したまではよかったのだけど、酔っ払ってそのまま寝入ってしまった。家ではいつものことだけど、山では初めてだったのでちょっとバツが悪かった。寝不足のせいかな。望月君は薬師岳まで行きたそうだったが、晴れれば薬師平ピストンということで就寝。

17日 薬師峠〜折立 雨
夜半から雨が降ってきた。当然御来光は拝めないので薬師平ピストンは取り止めとなり、昨日の夕方から眠りゆっくり寝た。寒そうだったので非常用のホッカイロを引っ張り出したが必要なかった。望月君は寒かったそうで昨晩に引き続きよく眠れなかったそうである。(気づかずごめん)

上ノ廊下パーティを待たせてはと余裕をもって出発したら15分で着いてしまい、掃除中の小屋には入りにくく、雨の中、軒下でたたずむ。とそこへ古川原君がパワフルにやってきた。上ノ廊下はとてつもなく大変だったらしい。阿部さん、松ちゃん、佐藤さんと全員が9時すぎにそろった。人数がおおいこともあり、折立へは適当に別れて下山した。折立への道は木道を整備中だった。水が出ている所が多く、沢靴で下山するのが最良だった。

折立からはタクシー2台に別れ有峰の温泉に向かった。なるべく早く帰りたい私は温泉をパスして一人先に失礼した。電車は結構込んでいて自由席には乗れなかった。そのため指定車両に乗ったのだが、ザックが濡れていたのでズボンが濡れて、空いている席(指定席ですが)に座れずデッキに立って帰った。かつては特急白山で7時間かかったが、今は特急&新幹線で約4時間、富山と東京は本当に近くなったと思う。

双六谷は水量が多くとてもきれいなところだった。お助けひもがないと渡れないところがたくさんあり、西さん望月さんにずいぶん助けてもらいました。また共同装備もずいぶん軽くしてもらい助かりました。おかげで無事5日間歩けました。本当にありがとうございました。それから、帰りのことではいろいろわがままを言ってすみませんでした。(記:五十嵐)

《コースタイム》
8月13日 林道ゲート5:55〜打ち込み谷出合吊り橋11:20-12:00〜打ち込み谷出合13:05〜泊場17:30
8月14日 泊場8:10〜九朗右衛門谷へ続く沢との出合の泊場11:45
8月15日 泊場7:40〜九朗右衛門谷出合8:20〜黒部五郎小屋11:50-12:30〜五郎沢出合13:55(祖父沢散策・交信)-15:30〜赤木沢出合16:45
8月16日 出発8:10〜ウマ沢出合8:50〜休9:40-10:00〜大滝10:50〜二俣11:00-12:10〜稜線13:30-50〜赤木岳14:00〜北ノ俣岳14:35〜交信15:00〜太郎平小屋16:15-35〜薬師峠16:50
8月17日 出発8:00〜太郎平小屋8:15-9:25〜折立11:25

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