『沢ぐるい』の血?

 私が一人で北アルプスなどの登山道歩きを始めた頃、母から「山登りをしている父(つまり私の祖父)の写真がある」との話しを聞いた。

その時は写真を何処にしまったのか忘れてしまったらしく、見せてもらうことは出来なかった。その後、家の立替えをする為、引っ越すことになり、家中の物を大移動したのだが、その時見つかった。

写真は全部で11枚あった。いかにも昔風の小さい写真。場所は谷川岳。ピークの写真、風景の写真・・・。何枚目かで私は思わず見入ってしまった。『あれっ?これって沢登り?!・・・』何人かの人が滝を登っている。滝を登っている写真3枚。さらに、焚火に飯盒をかけている写真まであるのだ。祖父がひとり写っている写真の岩壁には『西黒沢ガレ沢出合、ガレ沢直登七五〇米 谷川岳へ、ザンゲ沢 危険』の文字が見られる。1/25,000地形図にはないが、エアリアマップに薄い点線で書かれていて「廃道」となっている西黒沢沿いの道から谷川岳に登ったのだろうか。登山道歩きと言っても、滝の写真、焚火の写真があるのだ。写真を見た限りでは、私が毎週末のようにやっている事とあまり変わらない。血は争えないな、と思った。

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都心で生まれ育ち、夏休みには行く田舎も無く、自然や山との係わりなんて無かった私が、なぜ、こんなにも山に行くようになったのか?両親は登山なんかしない。それどころか母はちょっとした標高で頭が痛くなってしまうのだ。友人にこんな事を言われた事がある。『都心で育ったからさ、「自然への憧れ」みたいなのがあるんじゃない』。それはちょっと違うと思った。こう言われた時は、まだ沢登りを始める前だったが、「自然への憧れ」だけだったら3Kとも4Kとも言われる沢登りにまで手を出すことは無かったのではないか。始めてもすぐに辞めていたかもしれない。何時どこで沢登りに目覚めてしまったのか?入会して初めて行った『巳ノ戸谷』はよかった。初めての事ばかりでとても面白かった。しかしよく考えてみると、沢を歩いて『たのしいなぁ』と思ったことが以前にも一度あった。それはマチガ沢だった。
生物調査をしている会社でアルバイトをしている頃、水生生物の調査で湯檜曽川、西黒沢、マチガ沢、一ノ倉沢に入ったことがある。もちろん遡行したわけではなく、登山道や林道で入れる地点での調査である。その時、林道途中のマチガ沢の出合で休憩したのだが、私はその休憩時間に、ふらふらとマチガ沢を遡ってみた。といってもほんの50m~100mくらいだが、それが異様に面白かった。

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祖父の写真を見て、それが西黒沢だと思った時、このマチガ沢の事を思い出した。西黒沢とマチガ沢は隣の沢。マチガ沢に入った時、DANに書き込まれていた祖父の記憶が蘇ったのか。祖父の魂が乗り移ったのか(?!これは言い過ぎ)。祖父は私が生まれる前に亡くなっている。残念ながら話しを聞くことは出来ない。祖父の写真はこの谷川岳の写真しか見たことがない。本当は、祖父はこの時だけしか山に登っていないかもしれない。でもまぁ、そんな事はどうでもよくて、写真のおかげで、会ったこともない祖父の姿を見る事が出来たし、同じように沢を歩き、滝を登っている姿を見て、自分のルーツと言うか、理由と言うか、そんなものを感じた。祖父との繋がりを見つけたような気がしてなんだか嬉しかった。これは『沢ぐるい』の血なのかな?
祖父は何を思いながら沢を歩いていたのか?いつか、西黒沢から谷川岳に行こう。同じ道、同じ沢を歩いてみようと思う。写真の場所を見つけよう。
(せ)

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