植物の紅葉と落葉について

 これからの季節、山々が紅葉に染まり一年中で一番美しい季節を迎える。沢登りにおいても白い岩肌と赤や黄色のコントラストは目に鮮やかだし、源頭部で草紅葉に包まれるときは感動的ですらある。

 毎年当たり前のように繰り返される紅葉と落葉だが、今回はその仕組みについて少し勉強してみた。ものの本には紅葉や落葉の物理化学的なメカニズムは解説してあるが、「何故、何のために紅葉し落葉するのか。」という視点からははっきりと書かれてはいない。まだわかっていないのかもしれないし、そういう本に巡り合っていないだけかもしれない。
 そこで、「何故、何のために」の部分は、以前に人に聞いた話や自分の想像で補ってこのエッセイを書くことにした。書いているうちに、自分の知識が非常に中途半端であるため、いろいろな疑問が湧き上がってきて収拾がつかず、わざわざ人に読んでもらうような代物ではないことに気がついたのだが、「今後お互いに勉強していきましょう。」ということで我慢して読んで下さい。

1.紅葉のメカニズム
 春~夏~秋と晴れた日に植物は日光をふんだんに浴びて葉で光合成を行い、多量のでんぷんを生成する。生成されたでんぷんは葉から幹や根に運ばれ、あるものは種子として結実し、あるものは根や幹に蓄えられて翌年の発芽のエネルギー源となる。
 秋が深まり気温が下がってきて幹からの水分の供給が減ってくると、葉の付け根のところに離層と呼ばれる遮断層が形成され、やがて維管束といういわば葉と枝を結ぶ物流管が切れ、水の供給やでんぷんの移動が途絶える。その前に葉で生成されたでんぷんは枝や幹に回収されるが、回収し切れずにある程度のでんぷんが葉に残り、それは糖に分解される。一方、クロロフィル(葉緑素)は老化してアミノ酸に分解される。この糖とアミノ酸からアントシアンという赤い色素が合成され、これによって葉が赤くなる。
 余談だが、ホットケーキにかけるメープルシロップは、サトウカエデの幹に溜まったでんぷんが春先に幹の中で糖に分解されることを利用し、それを採取して煮詰めたものである。
 気温の下がり方が急であるほどクロロフィルの分解が促され、同時に回収し切れずに葉に残るでんぷんの量も多くなって生成されるアントシアンの量が多くなる。夏に好天が続き、秋に急に冷え込んだ年に紅葉がきれいだといわれるのはそういうわけである。
 葉にはカロチノイドという黄色の色素もあり、クロロフィルでは吸収し切れない部分の光で光合成の補助を行っている。ブナや銀杏などのような黄葉は黄色の色素が新たに合成されるのではなく、クロロフィルが破壊されて、隠れていたカロチノイドの黄色が面に出てくるためだと言われている。
 なぜ紅葉するのかについては明らかになっていないようだ。落ちた葉はやがて土に返り、また植物を育む土壌となるのだが、その際、緑色のままの生の葉っぱよりは、糖やアミノ酸に分解され、色素を含んだ状態のほうが微生物の分解が促進されるとか。何か理由があるのでしょうね。よくわかりません。
2.落葉のメカニズム
 日本では一般に春に展葉し、秋にはいっせいに落葉するものを落葉樹、葉の寿命が一年を超え、緑葉をつけたまま越冬するものを常緑樹という。常緑樹の場合には種によって異なるが、寿命を迎えた葉から4~6月に、または10~11月に落葉するものが多い。また、一年中絶えず数枚ずつが落葉する種もある。
 落葉の仕組みは先に紅葉の項で述べたように、葉と茎の間に離層が形成され維管束が切れて物流が途絶え落葉するというもので、これは落葉樹、常緑樹を問わず同様である。
 それでは、多量のエネルギーを投資して作り上げた葉を何故落としてしまうのか。その理由は落葉樹と常緑樹では幾分異なる。
 常緑樹の場合、葉の寿命が大きな理由のようだ。葉では太陽の光エネルギーと水と二酸化炭素からでんぷんを合成するという大仕事が常になされている。そのため組織の疲弊が幹や枝に比べて激しく、1~6年で寿命が尽きて落葉する。いわば新陳代謝である。
 落葉樹の場合は越冬ということがキーワードになる。冬になると降水量が減るため、根から吸い上げる水の量が激減する。葉の組織を維持していくためにはある程度の水分と養分が必要であるが、それらの供給が困難になり、葉の組織を維持していくことが難しくなるのである。また雪国にあっては日照時間が減り、葉が雪を被るためさらに光エネルギーの吸収が阻害される。光合成ができなくなるのである。つまり、植物全体にとって冬季の葉は収益が上がらない(光合成ができない)割に経費ばかりがかかる不良資産であり、これを切り捨てて苦しい冬をじっと耐え、翌春に再起する方が新たに葉を作る投資を考えても効率的なのである。
 落葉にはもう一つ、越冬のための耐寒戦略としての面がある。寒冷地の植物が越冬に当たってもっとも留意すべきことは、低温に曝された挙句の細胞内凍結や凍結・膨張による組織の爆裂という点である。葉を維持するためには先に述べたように、根から吸収した水分や養分を幹や枝の管を使って末端の葉まで運ぶ必要がある。そのとき管の中は水分で満たされることになるが、その状態で低温に曝されると管内が凍結し、膨張圧で管が破裂してしまう。落葉して冬眠状態となった管内は空隙がかなり多く、たとえ凍結しても膨張圧が作用しないようになっている。また、落葉直前に葉のでんぷんを回収することにより、樹液の濃度が高まり凍結温度を下げる効果もある。

 働くだけ働かされて効率が悪くなると切り捨てられる葉っぱに少し同情。人間社会にたとえれば定年を迎えて熟年離婚されるようなものだ。毎週山に行っているようじゃ問題かも。
(ま)

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