朝日・八久和川出谷川中俣沢

2006年8月11日〜8月16日
L大塚、関、五味渕

2006/08/11 朝日:八久和川中俣沢

 八久和川。朝日連峰の狐穴を水源として北から南に流下する長大なこの川は、朝日連峰を地域研究の場として歩んできた当会においては馴染み深い所であるが、実は今まで私は本流、支流も含めて、一度も八久和川水系の沢を遡行する機会に恵まれていなかった。

 「いつかは八久和川へ」の思いは以前から持ってはいたが、今年の夏合宿の計画段階では殆ど候補の念頭に無く、パーティー編成に頭を悩ませながらの消去法的ルート選定の後に浮かび上がってきた計画であった。しかし、だからといってモチベーションが低かったかというとそんな事はない。ルートとパーティー編成が決まってからは、行くからには必ず完全遡行したいという思いを強く感じていたし、新人を含むパーティーを率いて自分がリーダーで行く事にもやり甲斐を感じていた。中俣沢は登攀的な要素は少ないが、今年は多量の雪渓が予想され上流部の遡行は行ってみなければ分からないという事もあり、入山前の緊張感もかなりあった。
 今年は西パーティーが八久和川中流部からの中俣沢遡行の計画を立てていたのでルートがダブってしまった感じもあるが、こちらのパーティーは日程的に自由が利く三人で八久和ダムからの完全遡行を目指して入山した。

8月11日(晴れ)
 林道が地すべりのため通行止でタクシーは峠までしか入らず、一時間強の林道歩きがアプローチにプラスされる。林道終点から本流左岸の山道に入ると初日の重荷と暑さのためペースは上がらず、フタマツ沢出合の渡渉点を渡るのは15時になってしまった。ここ数日間雨が降っていないせいか水量は少なく渡渉は楽勝。下流部は渡渉の困難さを覚悟してきただけに少々拍子抜けだ。後日佐藤さんに写真を見せたところ水量はかなり少な目との事。右岸に渡り適当にヤブを漕いで再び山道に出る。
 初日に予定していた長沢出合の幕場までは届かないとしても、カクネ沢出合を越えて何とか本流の河原に泊れると思っていたが、カクネ沢の一本手前の支流が入る辺りで道を失う。小沢の割には意外と深く切れ込んだこの沢を渡った先の道が見つけられず、行ったり来たりして時間をロスする。結局道は一旦本流に降りてから再び上に上がっており、それを見つけた時にはいい時間になっていたのでここで幕とする。

8月12日(晴れ、昼前後に雷雨)
 カクネ沢出合で山道から降りて遡行を開始する。長沢出合までは概ね広い河原が続く。芝倉沢出合付近まで来たところで雷雨となる。激しい雨と雷のためしばらく様子を見るがなかなか止まない。雷が鳴る中、下流部核心の栃ノ木沢出合付近のゴルジュに突っ込んで行く気にはなれないので芝倉沢出合の安全地帯で雨宿りをする。結局雷雨は2時間半程続きその間足止めをくったが、増水の度合は遡行可能な程度なのでこの日は小国沢出合まで行く。小国沢出合の幕場は高台の台地で安全なビバーク地だ。

8月13日(晴れ、午後からにわか雨)
 昨日雷雨があったもののやはり水量は少ないようで渡渉に困難さはない。この辺りは魚影も濃いので遊びたい気もするが、行程的には半日程遅れているので遡行に専念する。快調に飛ばし岩屋沢出合に13時過ぎに着くがここでまたもや雨。昨日のような雷は無いが雨の降りがかなり強いので休憩がてらしばらく様子を見る。行程的には出来れば呂滝下辺りまで足を延ばしたいのでかなり迷ったが、この日は西パーティーが山越えで岩屋沢出合に降りてくるので我々もここで行動を止めて、2パーティー分の幕場を確保する。
 雨は1時間程で止んだが、止んでから2時間程してから水位が急激に50cm程上がり、一時は渡渉不能な程の増水となった。上流部ではかなり降ったようだ。
 夕方、西パーティーと合流。

8月14日(晴れ)
 この日からは西パーティーと共に行動する。我々は予備日を使い一日遅れの行動計画に変更となる。西パーティーの仕入れた天狗小屋管理人のガセ情報(呂滝上からスノーブリッジがある)を聞いて気合いを入れて出発するが、あっけなく昼前に幕場予定地の西俣出合手前の屈曲部に到着。泊るには早すぎるが中俣沢に入ると幕場適地は無いと思われるのでこの日はここでゆっくりとする。なおここの幕場はかつては河原だったらしいが現在はその片鱗すらない。右岸の小広い台地はロケーションも良く安全地帯だが、半分が水溜りになっていてあまり快適ではない。

8月15日(晴れのち曇り)
 いよいよ中俣沢の遡行日。条件が良ければ半日で稜線に上がれるはずだが、雪渓の状態次第では困難さが増す事が予想されるのと、6人行動で時間がかかる事を考慮して、6時に出発する。
 西俣沢、東俣沢を分け小滝を二つ程登ると早くも雪渓が現れる。それ程規模は大きくないがここに雪渓があるという事は例年よりも多いという証拠だ。穴の空いた不安定な雪渓なので左岸から高巻くとその上はナメ状の美しい連瀑となる。
 大滝15mは右岸から小さく高巻くが見た目以上に悪く、後続にはフィックスロープを張る。大滝上は大きな釜を持った小滝が続き美しい渓相なのだが、上流部にある雪渓のせいか水が濁っているのが残念だ。エメラルドグリーンならぬ茶色い釜の中に水中スタンスを探しながら越えてゆく。
 この大釜小滝群を越えるといよいよ本格的に雪渓が続くようになる。まずは100m程の雪渓を右岸の斜面から巻き始め、途中から雪渓上に降りて左岸に渡り、次の30m程の雪渓の手前で再び右岸側に移る。ルンゼを一本跨いで再び100m程の雪渓が続くが、これは右岸側の斜面が緩くシュルントも浅いので雪渓脇を簡単に辿り、真ん中辺りで雪渓に乗っかり左岸の小ルンゼに入ると、雪渓終端の滝を上手い具合に高巻く事が出来た。
 続く100m程の雪渓は右岸側から雪渓上に乗り、途中から左岸のブッシュ帯に入り、雪渓出口の滝上に出る。10m、5mと二つの滝を越えると30m程の雪渓になりこれは潜って通過するが、雪渓出口の5m程の滝を登るとその先がもろい微妙なトラバースとクライムダウンなので、潜った雪渓上に左岸側から登って右岸に渡り、終端の薄い部分を肝を冷やしながら渡って右岸の安全地帯に抜けた。
 ここから先はS字峡と呼ばれている屈曲部だが、予想通り殆どが雪渓に埋まっている。長さは2〜300m程だろうか。出来れば雪渓上に乗りたいが、途中の滝場で途切れている部分が厄介そうだ。右岸から高巻き、あわよくば低くトラバースして雪渓上に乗ろうかとも考えたが、際どいトラバースをロープを出しながら6人で通過するよりも、大高巻きした方が時間的に早いと判断し、ブッシュを拾いながら標高差150m程を稼いでからトラバース、小尾根に乗りS字峡の屈曲部を目指して下降、最後はブッシュ伝いに雪渓終端の5m滝上にドンピシャリと降りた。途中で休憩を1回入れて70分の高巻きだったが、6人で行動する事を考えればノーロープで安全に通過出来る早いルートだったと思う。
 崩壊した雪渓のブロックの隙間を通過すると連瀑帯になる。細かく数えると5〜10m程の滝が10数個続いている。遠くから眺めると絶望的に見えるこの連瀑も、実際に行ってみると概ね直登か小さな高巻きで通過出来る。中俣沢の最後のハイライトだ。連瀑帯を越えると細い流れになり幾つか小滝を越えると最後の二俣。狐穴小屋にツメ上げる左の沢は雪渓に埋まっていたので右のスダレ状の滝を架ける沢に入ると、やがてチングルマ咲く草原となり、稜線の登山道に出た。
 狐穴小屋泊、800円のビールで無事遡行出来た事を乾杯。

8月16日(曇りのち晴れ)
 竜門山経由で日暮沢小屋へ下山。(記:大塚)

<コースタイム>
8月11日 / 林道の峠(9:20)〜林道終点(10:30〜10:50)スズクラ沢出合(12:15〜12:40)〜フタマツ沢出合(14:30〜15:05)〜カクネ沢一本手前の沢(18:20)
8月12日 / カクネ沢一本手前の沢(7:40)〜カクネ沢出合(8:50〜9:05)〜長沢出合(9:50〜10:05)〜芝倉沢出合(10:30〜13:00)栃ノ木沢出合(14:20)〜小国沢出合(15:40)
8月13日 / 小国沢出合(6:50)〜小赤沢出合(7:55)〜茶畑沢出合(8:30〜8:55)〜平七沢出合(11:30〜12:20)〜岩屋沢出合(13:30)
8月14日 / 岩屋沢出合(6:05)〜オツボ沢出合(6:35)〜コマス滝下(7:35〜7:50)〜呂滝(9:15)〜西俣沢出合手前屈曲部(10:30)
8月15日 / 西俣沢出合手前屈曲部(6:05)〜西俣沢出合(6:25)〜大滝上(8:30〜9:00)〜S字峡手前(12:10〜12:30)〜S字峡上(13:40〜14:10)〜連瀑帯上(15:40〜16:05)〜稜線登山道(17:15)〜狐穴小屋(17:35)
8月16日 / 狐穴小屋(7:50)〜日暮沢小屋(13:30)

【 夏合宿の感想 】

◆ 大塚
「八久和川の印象」
 やはり下流部から岩屋沢出合にかけての太く美しい流れに魅了された。今回は水量が少なく渡渉の困難さはあまりなかったが、増水すれば手の出しようもない大河だけに、「八久和の真髄は下流部から中流部にあり」という感じがした。もう少し渡渉に苦労すれば遡行の充実感も増したかもしれない。
 反面、岩屋沢出合から呂滝までの人臭さには少々幻滅した。釣り師垂涎の沢だけにしかたがないのかもしれないが、この区間の人臭さが八久和川遡行の面白みを半減させている気がする。
 中俣沢は非常に美しい秀渓だが、やはり遡行者が多く、当たり前過ぎるメジャールートといった感じがした。今回は雪渓が多かった事がむしろスパイスになって、良かったかもしれない。

「リーダーとして」
 八久和川は会として多くの情報を持っていたので、遡行経験者からのアドバイスのおかげで遡行のポイントが事前に把握でき、リーダーとしては随分楽が出来たように思う。反面、快適な幕場に拘り過ぎたため、余力があるにもかかわらず早めに行程を止める場面もあり、そういう点では積極性に欠けた山行になってしまった。二日目の雷雨による行動中断は良しとしても、三日目の岩屋沢出合泊と四日目の午前中の行動終了は、若干遊びすぎた感がある。きちんと行動を詰めて逆算すれば、四日目には中俣沢の連瀑を越えられたので、そうすればあと一日日程が短縮出来た筈である。「ゆっくり楽しんでこその八久和」という考え方もありますが、皆さんはどう感じましたか?
 四日目以降は西パーティーと一緒になり6人行動となったが、大人数での遡行はパーティー間の意思疎通、危険箇所の共通認識、という面で少し問題があったように思う。大人数での遡行時はトップとラストの間ではお互いの行動が把握しづらいので、予めしっかりオーダーを決めて役割分担をした方が良かったと反省している。
 その他、細かい点での反省もいくつかある。参加者各自が山行をきちんと振り返り、気付いた点はヒヤリハット報告などに出してもらえれば、今後の山行につながるのでお願いしたい。

「これからの八久和川」
 次回はオツボ沢か西俣沢に入りたい。あるいは中流部の大赤沢から平七沢、小国沢から戸立沢などを継続で横断したら自分達だけのルートが引けて面白いかもしれない。

◆ 関
「(前略)こうなったら、もう一度、行かなければ気がすまない。もちろん、次回は、今回のような思いをしないように鍛えていかなければ。
 次回目標———八久和の美しさを愛でる余裕のある山行にする。」

 1年目夏合宿の後、こんな感想を書いた。さて、その目標は達成できたのか?

 今回の夏合宿は八久和中俣パーティに編制された。正直言って嬉しくもあり、とても不安でもあった。
 あの1年目の辛かった(体力的にも、メンバーに迷惑をかけている、来なきゃよかったとの精神的にも)思い出のあの沢に再び行くことが出来る、今度こそは八久和を楽しめる、と思った。
 が、一方では、今年はシーズン初めから個人的にいろいろなことがありすぎて、昨年より沢に気持ちが向いてなかった。それなのに八久和に臨んで大丈夫なのだろうか?また辛い思いをするのでは?しかも今年は雪渓が多く残っていそうで、雪渓が苦手な私は…。結局また辛い八久和の思い出が出来るだけなのでは?と不安も大きかった。
 不安があると言っても、八久和に行くのは私だ。行くまでにモチベーションを上げなくては。地形図6枚張り合わせて、記録を読んで、3週間くらい前から食料計画を立て始めた。今回は登攀・泳ぎ突破隊長のリーダーと若い突破隊員がいるので、泳ぎや登攀・高巻きルートは二人に任せて、その代わりと言っちゃぁなんだが、食料計画は私に任せてくれ、ヒモジイ思いはさせないぜっ!くらいな気持ちで全日食当を願い出たのだが、どうだったかな?満足に食べられましたか?
 山行は確かにあの1年目の夏合宿に比べ、余裕があった。あの時もそうだったが今年も水量が少なかった。雪渓ではひやひやしたこともあったし、高巻きでは少々泣きが入りそうにもなったが、それでも1年目の辛さとはほど遠かった。そりゃそうだ。もう6年目だもの。でも「6年目の中堅会員」としての役割というか、立場というか、自分がやるべきことはできたのか?もちろん最終判断はリーダーに任せるが、そこに至るまで、もっと自分でも考え、自分の判断を述べてもよかったと思う。述べなくてももっと考えるべきだったと思う。
 中俣沢に入り、絶望的に見える連曝帯を越え、周りは源頭部の草原になった。1年目の夏合宿の後に書いたあの感想を思い出した。「もう一度、行かなければ気がすまない。」こんなに早くそのチャンスがやって来て、そして無事に遡行出来た。再び八久和に行けるチャンスをくれた神様にも、一緒に遡行してきたメンバーにも、八久和の流れ、岩魚、高巻きのときに掴んだ木、雪渓、源頭部のお花たち、みーんなみんな、すべてのものに感謝したい気持ちだった。
 確かに夏合宿にしては「辛い」とか「厳しい」とかの要素が少なかったと思う。リーダーやメンバーもう一人はたぶん物足りなかっただろう。でも私には思い出深い山行となった。
 
 次なる目標は…八久和をリーダーで行けるようになる、ことかな?!

◆ 五味渕
八久和川は、百名谷に数えられるだけのことはあり、中流部以降の渓相は見事だ。あと20年早く入渓したら、更に感動が得られたかもしれないが。

しかし、初めての朝日連峰が八久和川で、今回、無事完全遡行できたというのはだいぶ運が良かったのかもしれない。下流部に至るアプローチでつまずき、更に荒天に苦しめられた割には、よく遡行し切ったものである。完全遡行するとしないでは、遡行直後に飲むビールの味も落ちるというものである。

イワナの宝庫といわれる八久和川で2尾というのは、戦果としては少ないのかもしれないが、毎日ほどほど運動し、おいしい食事にありつくことができ、良いリハビリになった。
(成田空港へと向かう電車内にて)

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